「PHASE 横手康浩」我が師匠の美容師引退を受けて。

本日、長きに渡り日本の美容業界の第一線で走り続けてきた元PHASEの横手康浩さんが美容師人生にピリオドを打たれます。

横手さんといえば80年代に伝説のサロン「ZUSSO」で活躍され、その後「PHASE」を設立。数多くのデザイナーを輩出されました。

実は僕もその1人。

上京し最初に入社したのが株式会社PHASEでした。僕が上京を決めたのもPHASEに入りたかったからですし、なんなら美容師を志すきっかけになったのも横手さんです。

僕にとっては神様みたいな存在で一生頭が上がらないし、足を向けて寝ることさえできません。



そんな横手さんが美容師人生を終えられるということで、今日は横手さんについてお話ししたいと思います。

僕が美容師を目指したきっかけ

僕は佐賀県の嬉野市という温泉とお茶が盛んなところで育ちました。何事にも熱心に取り組む素直な性格というよりは目立ちたがり屋の負けず嫌いでとにかくどんなことにおいても誰よりも先に自分が前を走っていることに拘っていました。まあめんどくさいやつです。

高校2年生が終わる頃、地元の中ではそこそこオシャレで都会の匂いを感じさせる美容室がオープンし、(あ、別にディスってるわけじゃないよ。佐賀県にしてはってことです。)イケてる友達は皆その美容室に足繁く通い、学校でもそこの美容師さんや髪型の話で話題持ちきり。となるとゴリゴリの目立ちたがり屋の僕が行かないわけがありません。月1でカットに通い、学校にバレないように黒髪の上から青のマニキュアを被せたりヘアスタイルに興味を持ち始めました。終いにはその美容室でアルバイトをすることになったんです。なぜかって?そりゃ高校生で美容室でバイトしてたらイケてるからでしょー。笑。(だいぶ痛いやつです。)この時は特に美容師になりたいとか思っていたわけではないんですね。

半年ほど経った頃、そこの美容師さんに「ヘアショーのチケット一枚余ってるから野口くん行く?」と誘われ軽い気持ちで行ったのがPHASE横手さんのヘアショーであり僕が本気で美容師を目指そうと決めたきっかけになった出来事。


福岡の大きなホールで(場所の名前は忘れました。。)生まれて初めて見たヘアショーはまさに圧巻でした。何人かの美容師さんがステージでカットした後、トリに出てきたのが横手さん。薄暗い空間の中、モデルさんに上からスポットが当たり横手さんの華麗な手捌きによって一瞬で変化していく髪。何一つ無駄のない動きで初めから最後まで釘付けになった。高校生の僕からしてもすごいことが充分に伝わってきたし、隣で美容師の先輩は震えてましたね。すごすぎて。何がすごいかを言葉で伝えることは容易なことではないですが、完成したヘアスタイルを見て僕が思ったことはしっかりと覚えています。



「あの髪に触ってみたい。」



まさにこれ。そう思ったのを鮮明に覚えています。なんて柔らかそうな形なんだ〜とその時の表現の乏しさに落胆しますが、これが素直な気持ちだったんですよね。そして僕もあんなふうにカットしてみたいという欲望を駆り立て、美容師の道に進むことを決めたわけですね〜。


株式会社PHASEに入社してから

それはもう大変な世界でしたよ。毎日辞めたかったですね。笑

今の時代とは違い当時はバリバリの体育会系の世界でしたから殴る蹴るは当たり前。(あ、愛のあるやつね。)周りの同期もイキリだってますから毎日喧嘩してました。まあそれくらいみんなが本気だったということ。お客様をきれいにするためもあるけど、何よりPHASEで働いていることをみんなが誇りに思ってましたね。PHASEの名前張ってるなら技術も接客もセンスもどこにも負けんじゃねー!みたいな。実際に僕もその気持ちで全てに向き合っていたし緊張感を常に持っていたからミスがほとんど生まれなかったんじゃないかな。とにかく日本のトップサロンの厳しさを肌で感じてました。


入社して4年した頃にスタイリストデビューし、そこから僕の快進撃が始まります。売り上げはそこそこでしたが雑誌の撮影に関しては登り竜状態で毎月何らかの雑誌で1ページ掲載獲得。休日はほぼ撮影のため3ヶ月休み無しなど当たり前。雑誌の企画案を通して自社だけに7ページ撮影を取ってきたり、読者投票の企画でグランプリを取ったり。とにかくイケイケですね。天狗の鼻が伸びすぎて壁に刺さってましたね。笑。


でも横手さんから褒められたことは一度もなかったですね。もちろん、僕としては褒めてもらいたかったですよ。「野口、頑張ってるなー。」とかでもいいから評価が欲しいじゃないですか。会社のためにこんだけ貢献してるんですよ。認めてくださいよ。ってね。

で、ある時自分のヘアスタイルが掲載された雑誌を持って横手さんの所へ行ったんです。(1番自信のある作品ね。)そしたら横手さん、それ見て「これはかっこいいの?」と一言。唖然とする僕にもう一発、「野口、魅力ってわかる?」と。僕は咄嗟に「わかります!!」と答えたけど「そう。」と言って答えは教えてくれませんでした。



横手康浩という美容師

それからも営業と撮影の日々は続きましたが、横手さんの言う魅力という言葉の意味がなかなか理解できませんでした。基本的に横手さんは答えをすぐに教えてはくれません。自分でもがいて苦しんで考えろという教え。カットも直接指導を受けることなど稀でしたね。なので営業中にお客様のカットをしている横手さんの後ろで一挙手一投足を完全に頭に叩き込み実践してみるというやり方で技術を盗んでいました。ただ、驚くのはどのお客様もヘアスタイルが完璧なんですね。ブレがないというか完成度が高いというレベルではなく100点の状態が当たり前という基準。そりゃお客様はリターンしますよね。他の人にはもう髪の毛を触らせないとお客様が口を揃えて言ってましたから。カット中に会話をすることはほとんどない方だったので技術の力でお客様の心を掴んでいると言えると思いますが、簡単なことではありません。


話は戻りますが、横手さんはお客様をとにかく大切にされてました。当たり前のことではあるのですがなんというか質が違うんですよね。



横手さんが常に言っていた言葉。



「お客様の一番になりなさい。」



お客様がまた来てくれるというのは、これまで数々の美容師に髪を切ってもらってきた中で自分にとって一番の美容師のところへ行く。今までで1番いいヘアスタイルにしてくれる美容師、この美容師じゃないとダメ。みたいな常に一番の存在であり続けないといけない。お客様にとって二番手以下だと意味がない。お客様から見て一番の美容師になると覚悟を決めて臨みなさいと。



横手さんはこのことを30年以上実践してきた鉄人なんですよね。だって売り上げがずっと落ちていないんですから。怪物です。



横手さんの言う「魅力」とは1番になれてるかってことなのかなと思います。そこそこのヘアスタイル作ってちょっとチヤホヤされたくらいでは続かないよと。1番になる覚悟を持って臨むことで魅力が生まれるんだよと。僕はそう解釈しています。


感謝。

長年美容業界を牽引されてきた横手さんの功績は誰の目から見てもすごいの一言です。そしてその方と一緒に仕事が出来たことは僕にとって誇りです。

僕が美容師を目指すきっかけになった横手さん。多分横手さんから見たら僕なんて鼻くそレベルくらいにしか思ってないかもですがお客様の一番になるためにこれからもっと魅力を磨いていきたいと思います。

そして落ち着いたらまた説教してください。作品見せるのでけちょんけちょんにしてください。

美味しいお酒のお店をご用意しておきます。

本当にお疲れさまでした。

どうかお体には気をつけて第二の人生を楽しくお過ごしください。

ありがとうございました!!


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